【熱性痙攣 】
生後6ヶ月から6歳までの子供が、高い熱を出した際に、30秒から3分位の長さの痙攣を起こす事があります。家族は大変心配されて来院されますが、全てと言っていいほど、子供さんには何も後遺症を残さないで治ります。これが熱性痙攣です。安心して下さい。さて、その痙攣の経過を少し紹介しましょう。
1.まず息を吸い込んだ状態で“ウァー”と言う奇声と共に始まります。両手足を異常に突っ張り、口も堅くつむり、頭は後に反りかえります。目は上を向いたままで唇は紫色になります。ここまでが、ほぼ30秒です。
2.次に手足がピクピクとし始め、顔色も白っぽくなってきます。同時に、息をヒューと吐き出します。この時、口の中に唾液でも溜まっていると、ブクブクと泡を吹いているように見えます。よく口から泡を吹いたから「てんかん」だ、と言われていますが、実は、泡吹きは痙攣が治まりかけるサインなのです。
ここまでが凡そ3分以内です。
3.そして吐いた息を、再び力強く吸い込みます。が、この時、その泡を気管に詰まらせる事が一番心配なことなのです。下手をすると窒息をしてしまいます。
ですから、痙攣が起きたら、慌てずに顔を横の向けてやりましょう。慌てて口に物を突っ込まないでください。お母さんの指でも入れると、噛まれて大変です。
実は、私の3女が生後6ヶ月の時、深夜、熱性痙攣を起こしました。その夜、病院で当直していた私に、妻が電話をして、慌てて病院に来た時には、当の娘はいい顔色をして眠っていました。妻は死にそうな顔でした。
【てんかん 小発作】
「学校の授業中、一瞬ボーとして先生の話を聞いていないようなことがあります。」
「給食の時に一瞬 ボーとしてスプーンを落としました。」
「幼稚園で友達と激しく走ったりした後、座ったままボーとして、一瞬頭が後ろに倒れそうになります。」
ここ1年半で3人の子供が、教師、保育士の指摘があり‘発達外来’の診察に来られました。共通する言葉が(ボーとする)・(一瞬)です。
これはてんかんの小発作という病気の典型的な訴えです。
“もやもや病”という生まれつき脳の血管に異常のある子供でも似たような訴えをすることがありますが、脳波を記録し、てんかん小発作と診断されれば、ほぼ完治します。
てんかんというと、手足がガタガタしたり、硬くなったり、そして泡を吹くという風に考えている人がおられますが、子供のてんかんには実に多くの型があるのです。
いつもと違う行動、一瞬でも変わった目つきをする‥が、あれば一度脳波を取ってもらっては如何でしょう。
【筋肉の病気】
先生の専門は何ですかと聞かれます。多少は小児神経学を学びました、特に筋疾患には興味を持っていましたし、今もその研究仲間もたくさんいます。
その縁で知り合ったお子さんがH子さんです。彼女は昭和59年(私が北九州から尾道市民病院に帰った翌年)、大阪大学から紹介されてやってきました。病名は先天性多発性関節拘縮症。生まれつきに関節が固く、徐々に進行していく病気です。知能には遅れはなく、周りの人と話もよくでき、皆さんにかわいがってもらいました。20歳後半ころから、胸郭の変形が激しく、そのため心臓の働きが悪くなり、徐々に体力が弱っていきましたが、それでも数年は家族の必死の介護で頑張って生き続け、最後は心・肺不全で力尽き、亡くなりました。入院の最後の日、私は見舞いに行きました。帰り際、意識が薄れゆく彼女に向って、“もう頑張らなくていいよ”とベットサイドで語りかけました。すると、私が帰って、30分もたたないうちに安らかに息を引き取ったそうです。
大阪大学の教授が尾道に帰るなら、尾道市民病院の私のところに行きなさいという、その一言から私との付き合いが始まり、私が自分の病気の専門家であると信じ切ってくれたH子さん。残念ながら私は、何もできない専門医でした。生きることの喜び、命の輝きを教えてもらったのは私のほうで、私のほうは命を助けてあげることができない無力な専門医でした。許してください、そして生きることを通して、無限のことを多くの人に教えてくれてありがとう。(合掌)。
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【もうひとつの幼稚園 =あづみ園=】
尾道市には広島市、福山市と並んで県内でも数少ない知的発達障害児のための保育所(幼稚園)があります。そこには知能のおくれている子供だけでなく、AD/HD、自閉症、脳性麻痺等、さまざまな発達課題を持った子供たちが通っています。このような、全ての障害児を受け入れる、総合的な障害児療育通園施設は、県東部地域では唯一ここだけです。
その施設を、
“あづみ園”といい、私が、その運営母体の社会福祉法人”あづみの森“の理事長をしています。今日も、あづみ園では、50人以上の子供たちが、20名余の保育士、言語聴覚訓練士、心理士など色々な職種の指導者と共に、遊び、学んでいます。
あづみ園の療育の基本は“子育ては、子供の自信を育てること”です。小さい時から発達のハンデイを持っていても、自信に満ちて生きていけるように指導(療育)されています。
あづみ園のスタッフの最大の願いは、こうして育てられた子供たちが、将来、地域の人たちと一緒に、助け合いながら、助けられながら、プライドを持って、一生暮らしていけるような社会が出来ること(インクルージョン理念の実現)です。
インクルージョン、21世紀の人類共存のキーワードです。
【IQ 知能検査】
IQ、私たちの世代では話題になっていましたが最近教育現場では聞きません。
IQが100だと子供の発達は年齢相当。標準化された検査法で10歳のこどもが6歳程度の発達しかないと判定されれば60になり、5歳の子供が4歳程度の発達なら80です。幼稚園に入って間もない位の小さな子供では、知能指数と言わず発達指数(DQ)という数値を用いて表すことになりますが、基本的な考え方は同じです。
この数字は子供の発達の一つの目安で、70未満だと知的発達の遅れがあると考え、70~85程度の数値だと境界域の知的発達であると評します。
IQ70未満の子供は一見してわかることも多いのですが、75~85位の子供はなかなか検査しないとわからないことがあります。学校で一番困るのがこのレべルの知的発達の子供の教育法です。このレべルの子供達は、ほかにも様々な発達障害を合併していることもあり、学習障害とか、学校に行きたがらない子供の中には、こうした子供が多いことが明らかになってきました。もし子供さんに何か学校生活で問題があれば、診察とともに適切な発達検査を受けてみたらどうでしょうか。
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